ハロウィンには乗れない。パブリックビューイングなど縁がない。王道は苦手だけど、紅白の仕事がしたいです


年の瀬ですね。

とつぜんの持論展開となりますが。クリエイターという職業に就く人はどうしてか、かなりの確率で、斜に構えてるんですよね。マイノリティーを好み、マイノリティーの殻に埋まる。それは自分自身にオリジナリティがあるからこその行為なのか、もしくはそうしたことで王道な評価から逃れようとしているのかはわかりませんが。

私自身、自分はまだまだ浅瀬にいるんじゃないか? と信じつつもも、昔から王道イベントには乗っかれない。体が硬直してしまって笑顔が引きつります。

高校時代から、カラオケで今年のヒットソングなんかは頼むからマイク回さないでほしかった。ワールドカップのバプリックビューイングなんて2002年の日韓共催の頃からご縁がなかったし、ましてや昨今のハロウィンなど……


しかし、こんなに王道に乗り切れない中で1つだけ心踊らされる国民的大イベントがあります。唯一無二、心から楽しめるマジョリティーは12月31日の夜7時15分から。



そう。紅白歌合戦です。

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そろそろ時期も近いので、語っていいでしょうか?紅白の素晴らしさを……。

紅白のすばらしさはそのラインナップの豊かさ、構成の素晴らしさはもちろん、日頃マイノリティ側にいるクリエイターたちの参観日みたいになるってところですよね。

記憶にあたらしいところでいうと、去年のPerfumeのドローン。多くの方が「ちょうちんなのに糸がない!」「ワイヤーが見えない!」「浮くチョウチン!」と盛り上がっている中、公式アカウントさんがこのような解説をしたところ……

「ちょうちん=ドローンではない!」「ドローンは照明じゃないですよ」「ドローンは照明じゃなくてラジコンですよ。ラジコンに照明をつけているんですよ」「ちょうちんの上についてた小さいヘリみたいなやつがドローンです」


などの的確な指摘が飛びまくりました。

ここでそのPerfumeちょうちんこと、ドローンとの共演動画を貼り付けたかったのですが、なかったので、ドローン動画だけを貼っておきます。動画に華がないけど、すごいぞー!日本の技術力!!!

まぁこんな風に動くドローンを初めて見たお母さんやお婆ちゃんが「なんやこれ、上手に動いてはるわ〜」と大きく感心する。そこで「あ、それライゾマさんの仕事やで。いやぁしかし、NHKさんもこんな大舞台で実験的なことに挑戦するなんて、いいよねぇ」と実家にいながら業界人ぶる瞬間が到来するわけです。

すると家族から「アンタ、東京で何やってるかちっともわからんかったけど、お友達が紅白で頑張ってはるんやったら、ちゃんとした仕事なんやなぁ」という評価を受けられる。これぞ、あやかり芸です。(お友達とは失礼な話です…すみませんすみません)

しかし、仕事仲間とも、家族とも、日本全土とも接合できる。こんなミラクルなイベントは年に1度だけですよ。紅白は、本当に最高のお祭りです。

◆ 2015年の紅白は、人工知能で楽しむ?

そんな紅白熱愛者の私にですね、パンチラ社長ことdot by dotの富永勇亮さんからうれしい依頼が来たわけですよ。

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「シオタン、いま作ってる紅白関連番組が面白いからちょっと取材に来てくれないか」


行く行く。行くに決まってるじゃないですか。

ということで、行ってきましたNHK。ここで1週間後には紅白がっ……

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複雑すぎる館内を案内されて、あるレコーディングスタジオに着きました。

現場の一流スタッフや

プロフェッショナルなミュージシャン、音響さん、エンジニアさんたちです。そんな彼らの見つめる先には……

この人は!

!!!

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こちらは紛れもなく「ぐっさん」です。山口智充さんです。

そしてお隣にいるえんじ色のワンピースは……

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福田彩乃さん!!!

福田彩乃さん!テレビで見るより可愛い!!(小並感)

さて、この日の収録は何だったかというと、これですよ。

以下、公式サイトより。

NHK紅白歌合戦65年の歴史・約3000曲を徹底分析!
膨大なデータから、日本人が“なぜか”気持ち良くなる歌を読み解き、
“あの時代っぽい歌”を作りました!
2015年の紅白直前。各時代のヒットソングをデータで探ると一体、どんなことになるのか!?

とのこと。つまり、モノマネタレントとしても超有名なお二人が「過去の紅白の3000曲から分析され生み出された様々な年代っぽい楽曲を歌うぞ」というスペシャル・番組なのです。

これ、人間が作詞してるんじゃないんですよね。各時代のヒットソングデータから抽出された「歌詞」を自動作曲ソフト「オルフェウス」が自動的に編集?して、歌詞にしてるんです。

いわゆるこれは、人工知能ネタじゃないですか。人工知能というキーワード、デジタルクリエイティブ界隈では2015年一番取り上げられのではないでしょうか?参考までにWIREDサイト内で「人工知能」を検索してみると……

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にじゅうにまんななせんけんっ…!

(※2014年以前の記事も含みます)

あと最新号の人工知能特集は厚さ2センチくらいありました。教科書みたい。

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まぁ実際のところ人工知能というもの自体は昔から言われていたかと思うのですが、でもやっぱり2015年は人工知能がアツかった。そこに天下の紅白さんが乗ってきてくれるというのはなんだか感慨深いものが……マイノリティとマジョリティの融合がここで今起こらんというエモーショナルな事件という訳ですよ。

それで実際、人工知能をもとに作られた曲は、どんな感じなのか?歌ったお二人に聞いてみました。

th_gussan「これまでに経験したことのない、歌いづらさでしたね…。…まぁでも今までが甘えだったのかもしれません。これは『お前たちが囚われている音楽の殻を破りなさい』というコンピュータからの挑戦なのでは?と認識して、頑張りました。そうすると、だんだん気持ち良くなってくるような気もした…かな?」


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「50年代とか70年代らしさというモノマネ要素を入れる前に、メロディと歌詞が掴めなさすぎて、すごく苦労しました!」







結論:めちゃくちゃ歌いづらかった


と、曲を聴く前に結論出しちゃってすみません。時代の流行り的に「人工知能は音楽家の仕事さえも奪うのか?」というテーマでもてはやされそうだなとも思ったのですが、そこはまだ心配はなさそうです。人類の圧勝でした。

ちなみにこちら、中身をちょっと解説しますと……

立命館大学の樋口耕一准教授が開発したソフトウェア「KHコーダー」で歌詞の年代別頻出ワードをピックアップ。その次、亜細亜大教授の堀玄先生が開発したプログラムに入力して自動的に「作詞」します。(ここで人間が意図的に触らないことがポイント!!)

そして嵯峨山茂樹先生が開発したソフト「オルフェウス」に入力し、メロディーを自動的に生成していきます。

ここで完成!といきたいところですが、ここからは人間の仕事が。その年代らしい楽器を使ってややアレンジしたりします。

これはまだ、「人工知能に人間は勝てる」という証明でもあるかも。でも、10年後にも同じ企画をして、どこまで攻められてるか、比べて見て欲しいなー、なんて思ったりしました。

その様子は詳しくGIZMODOさんにレポートされていたので、ぜひあわせてご覧ください〜〜!

・未来の紅白歌合戦は、人工知能が作ったヒット曲だらけになる?(GIZMODO)

放送は、2015年12月26日(土曜日)の午後9時〜9時59分までだそうです。ちょろっと聴いてみたのですが、50、60年代の楽曲から現代までかなり「それっぽい」仕上がりなので、おじいちゃん・おばあちゃん世代も我々世代も一緒に楽しめそうですよ。

これ、家族三世代で楽しむもヨシ、マイノリティ側の人を誘って家で鍋でもしながら、みんなでパブリクビューイングするのもヨシですね。とりあえず私はツイッターであれこれ実況しながら業界人ぶろうと思う次第です。

・紅白直前 データで作るあの時代っぽい歌 – NHKデータなび


◆どうして人工知能なんてめんどうなことをするのか?

正直、KHコーダーとか、オルフェウスとかを使わないでも、昔の曲っぽい歌謡曲とかアイドルソングって、プロの作曲家であればスムーズに制作できると思います。(むしろ、そっちの方がずっと楽ですよね)

でもどうしてわざわざ、チャレンジングなことをするのか?企画主である、富永さんに聞きました。

9fe016d671ff5d0bb8d890da3beb318a「人が人のために作ってきた音楽を、AIが人のこと考えずに作るってところに、可能性があると思ったんです。たとえば料理の領域だと、人工知能Watsonがつくったレシピは、既成概念を超えてきているんですよね。音楽でも、同じように、AIがいつか人を感動させるかもしれない。これは、ロマンだな〜と!」

なるほど。このプロジェクト、関わっている人がみんなワクワクしてるんですよね。好奇心が先に先に走っているのかも。

今回過去の時代の楽曲のことも調べてみたのですが、たとえば50、60年代のムード歌謡なんかでは、戦後日本にきていた連合軍の人たちが持ち込んだハワイアンやジャズ、ラテンが元になっていると知りました。そこで多様されたのは、スティール・ギターなんかの楽器だそうです。

その前の時代はヴァイオリンなんかの古典的な楽器が多様されてたみたいですが、日本の音楽家たちはすぐに新しい電子機器などを取り入れて、POPミュージックシーンを更新していきました。

「めんどくせぇ!」ではなく「なにこれ、試してみよ!」というクリエイターの好奇心で、POPカルチャーの世界歴史をどんどん塗り替えていくのかも。

まぁ、今はまだまだ「音楽家」としては扱いづらい人工知能。でも、10年後はどうなっているかわかりません、本当に。

2015年の年の瀬に誕生した、超実験的な人工知能音楽。まずはその楽曲…いや、産声を、ぜひ耳にしてみてくださーい!

平均ソングを制作されたみなさま
制作・著作:NHK
協力:樋口耕一(立命館大学教授)嵯峨山茂樹(明治大学教授・東京大学名誉教授)堀玄(亜細亜大学教授)
企画・制作:dot by dot inc.
音楽:インビジブルデザインラボ
プロデューサー:富永勇亮、関賢一
音楽監督:松尾謙二郎
クリエイティブディレクター:谷口恭介
テクニカルディレクター:Saqoosha
デザイナー:高谷優偉
プログラマー:松竹誠
システムエンジニア:イズカワタカノブ
アシスタント:佐藤志都穂

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