2007年、ギリギリで入試を突破して入学した京都市立芸術大学の入学式で、学長がこういった。
「うちの大学にはデーモンがいます」
みんなが耳を疑ったけど、たしかにそう言った。
実際に幽霊スポットなんじゃないの、という説も濃厚なんだけど、30分にバス1本しかない京都の果ての沓掛という村には、たしかになんだか異様な空気が流れていた。健常な精神ではいられないような、ゾワゾワするような、なにか心の中心線を失うような。
でも、その異様な空気は京都という街を全体的に覆ってた気がする。大学時代、私は気が狂ったかのように京都市内を駆けずり回っては自分たちで作ったフリーペーパーを設置したり、なぜか毎日広告営業をしたりしていたんだけど、あの街は学生に優しく、あれだけ歴史のある街なのに、いつまでもどこか子どもっぽい。みんな自分の好きな事に素直で、それを何年も突き詰めている。
でも、たとえば「下北沢」の陽気な子どもっぽさとは明らかに違うなにかがあった。ずっと長いこと煮込んだスープのような旨味がある、それぞれの思想は違うんだけどそれぞれが思慮深い。
私は、そんな京都が好きだった。
でも、そんな「陽気ではない」土地でも、いざ祭りだ、となると全員が異常なほどに熱気を高める。
この写真は大学4回生の時、若手の美術作家が中心となって「京都藝術」というイベントの中のトークイベントに出させてもらった。大学生世代をふんわり代表して、みたいな立場でここに立ったけど、人前に出て話す、というのはこのときがきっと初めてで、ものすごく緊張したし、とにかく暑かったし。
「京都藝術」では京都中のギャラリーや美術館、ホテル、様々なオルタナティブスペースがこの渦に飲まれて、芸術大学に通うハタチそこらの私は大興奮したものだった。このイベントに出させてもらったことも懐かしいけど、私のような子どもも、京都で何年も商売をしている大人も、一緒になって盛り上げられるのが京都の素晴らしさだった。
そこから私は東京の会社に就職して、Webと広告の仕事に消耗しつつも楽しく過ごして、いよいよ関西弁が不自由になってきつつ、毎日仕事なのか趣味なのかエンタメに浸り続けている。
そんな中、仕事で京都へ帰った。仕事で京都に帰るのは初めてだった。
西陣織の老舗「細尾」の細尾真孝さんと、彫刻家の名和晃平さんを訪ねた。(名和さんのインタビューはこちらで公開されているので、ぜひ見てほしい!)
どうして取材したかというと、ですよ。
9月2日、3日、4日の3日間。OKAZAKI LOOPSという「祭り」が、京都・岡崎で開催されるのです。
細尾さんや名和さん、そしてバレエダンサーの首藤康之さん、音楽家の高木正勝さん、指揮者の広上淳一さんらがディレクターを務める、音楽フェス……音楽フェス? うーん、ジャンルレスな「祭り」だと思う。
バエレと西陣織のコラボレーションでフェスは始まり、真鍋大度さんや徳井さんらの人工知能DJイベント「2045」があり、蓮沼執太さんらのコンサートがあり、大橋トリオさんのコンサートあり、八木良太さんやevalaさんらの「音をとらえる」という展覧会もあり・・・プログラムは多すぎて書ききれないんだけど、この暑すぎる時期に、盆地の京都で、世界中からアーティストが集まってくる異常事態なのです。魔物の仕業かよ。
名和さんたちはこの日のために何ヶ月も前から特別な練習場まで建設(!)して、森山未來さんたちダンサーと灼熱の中で練習していた。京都の南の果てにあるスタジオの中で、様々な国籍のダンサーたちが英語でダンスレッスンしてた。(・・・というのはこっちの記事を読んでほしい!)
でも実質の準備期間が数ヶ月だったとしても、ここの人たちは、何十年、何百年も前の経験すら作品に活かしてしまう。
クラシック音楽があり、伝統工芸があり、テクノロジーがあり、それのコラボレーションですよ、だんていうと言葉が軽いんだけれども。普通だと喧嘩してしまいそうなジャンルの違う表現者たちも、京都の祭りとなると協力しあえるのかもしれないな、なんて。
とにかく、来週末は京都に遊びに来てください!!!!!!一緒に魔物に取り込まれて踊ろうよ、というお誘いなのでした。
私はずっと会場にいるので、待ってます!京都で!