メディアには影響力がなければいけない


当たり前すぎるタイトルなのですが、全然当たり前じゃないので書きます。(1/17 16:00 追記あり)

私はネット生まれのWebメディア屋なのでマスメディアの詳しいことは知らないですが、タレントがメディアに出るとき、雑誌であろうとテレビであろうと、なにか宣伝商材を持ってくるのであれば出演料は不要だと聞きます。(拘束時間によっては通常の5割引とかの値段になるらしい)

これは良いと思います。何千万と必要な宣伝料とタレントのギャラを相殺するということなので。

でも、ネットを中心にメディア(らしいもの)が増えて増えていく中で、すっかり「メディアのふり」をした媒体がいかにもそれっぽい顔をして編集部を携えている。そこには読者なんていない。なのに、「メディアに出してあげるからギャラは無料で」という図式だけが受け継がれているのです。

Webメディアに関わる中で、クリエイターの友人から相談されるのです。ひとりやふたりじゃない、5人くらいから同じようなことを。「この前、取材してもらったのは良いんですけど、すごく困ってしまいました」と。

「記事のクオリティが低すぎて、校正に半日を費やしてしまったんです」
「自分がつぶやかなきゃ、誰も読まないんじゃないですかね?」
「これ書いたの、本当にプロのライターさん?」


つまりは、記事のクオリティが低すぎる。媒体側の拡散力がなさすぎる。そもそも日本語がおかしすぎる。インフルエンサーの影響力におんぶにだっこ、なんなら校正まで先方まかせなメディア(らしきもの)に捕まって大変な思いをした、というお話です。

そしてほとんどの場合、取材対象者に謝礼は出ていません。

「寄稿」だと出るはずの謝礼が、「取材」だと出ない。でも相手の労働力は同じくらい(もしくはそれ以上に)削られています。

その相手は、1日で100万円ほどの価値を生み出すクリエイターかもしれない。1本30万円で文章を売っている作家かもしれない。なのに、労働力と影響力を「メディア」という名の下でタダでもらうケースが多すぎるのではないでしょうか?

とはいえ、私はWebメディアを運営する側の人間だから、これを書きながらも自責の念で胃が熱くなってまいりました。そう、メディア側の内情はこんな感じです。

オウンドメディア全盛期で、メディアを立ち上げるまでは良いけれども、話題性がない。PVが取れない。なんとかして、数字を取らなきゃいけない。

そのためにいわゆるインフルエンサーという人をラインナップする。

「この人なら2万PVくらいはいくだろう」
「この人のフォロワーは何人だから、こっちの人より影響力がある」
「この人と会ってみたいなぁ…」

そんな会議をした上で「(メディアとして)取材をさせてください」と依頼をするわけです。

でも、それはメディアなんかじゃない。ただのフォロワーです。

編集部に企画力さえあれば、インフルエンサーがいなくても、数字はとれます。なのに、「メディアを立ち上げたぞ!」「インフルエンサーに取材しろ!」「はあちゅうだ!」「ヨッピーだ!」というのは、相手の影響力と時間をタダで借りる行為であって、失礼極まりないわけです(と、私は思います)。

市場に名前が出ていない駆け出しのクリエイターであれば、影響力のないメディアであれ取材してもらうことにメリットはあります。1つの他己紹介がネット上に出来て、それを見た親戚一同は安心したり感心したりするだろうし、自分で語るよりも説得力もある。でも、メディアが声をかける相手のほとんどが、名前が売れているインフルエンサー。そうなってしまうのは、わかりやすく数字が取れるからです。

とはいえ、2009年頃の話をすると。当時の自分は微塵の影響力もないのに、ノーギャラで、著名なクイリエターの方々に、取材させていただいてました。(学生時代に、SHAKE ART!というフリーマガジンを作っていました。)

たっぷり、校正もいただいてました。今ここでブチ切れてることと同じです。当時は魔法の言葉「学生さんだからね、今回は勉強ね」に全力であやかっていた気がして、本当に本当に当時付き合ってくださった大人の方々には感謝してもしきれないし、あらためてちゃんと取材させて欲しい人がたくさんいる。(今の方が100倍くらいちゃんと、言葉を広められる気がする)

でも、手探りながら、周りの大人に怒られながらも取材してデザインしてみんなで続けていくうちに、1万部はすぐに持って行かれるくらい、フリーマガジンSHAKE ART!のニーズは生まれた。読者ができた。技術はなくとも、破けそうなくらいの愛を込めてはいました。

しかし。学生さんでもない、いい歳した大人がメディアのふりしてインフルエンサーにタダ乗りするのを見ると、もう本当にやめて欲しいと思うのです。

そして、相談してきた人はみんな困っているけど、「せっかく取材してもらったから」「一応、メディアだから」と、大きな声で「困ってる」と主張できない。だから同業者として苦しくて、勝手に書きました。みんなすげーーー困ってるぞ!!!

メディアと名乗るものは、影響力をつけなきゃいけない。むずかしければ、せめて謝礼をお支払いしてください。もしくは、相手に、「この人と時間をすごしたい」「この人に記事にしてほしい!」と切望されるくらい、大好きになってもらってください。


自責の念でそろそろ胃酸が逆流しそうなので、このあたりで終わります。見苦しいエントリにお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、電車の窓から見えたのどかすぎる二子玉川の様子でもはっつけて、打ち消そうと思います。。



<追記> 1/17 16:00

ジャーナリズムとしてのメディアなのか、PRとしてのメディアなのかという前提が抜けたままに書いてしまって、誤解を生んでしまった部分があり、失礼しました。

今回問題視しているのは

「タレントがドラマの番宣のためにバラエティに出る(番組の視聴率があがり、ドラマの番宣になる)」
「作家が著書の宣伝のために雑誌のインタビューに出る(雑誌が売れて、著書も売れる)」
「映画監督が作品の宣伝のために映画雑誌に出る(ほぼ同上)」

=だからギャラは無料でよろしく!

の文化を引き継いだ「あなたの宣伝だから無料でWebメディアに出てね」という部分の話です。

批評家やジャーナリストが特定の作品について調査・思考して論じることに関しては、いわゆる「先方チェック」や「先方へのギャラ」は不要だと思っています(これもまた主観ですが)。
 


あと、批評ばかりの文章になっちゃいましたが、連載をもたせてもらっているこちらの媒体では編集部の方々にいつもすごくお世話になっていて、勉強させていただくことが多いです。

あと、Webメディアだとcakesと、ジモコロの記事が好きです。丁寧な愛を感じるから!!

<追記2>1/19

「で、この塩谷って人は何の記事書いてんだよ?」と書かれまくっていたので、2015年に書いた記事をいくつかはっておきます。。自己紹介ってむずかしい。

・否定も、悲観も、熱弁もしない。日本メディアアートシーンを牽引する、真鍋大度とは?

・「挑戦しないと文化は死んでしまう」NYで活躍する日本人、川村真司の強い執着

・「漫画を生み出すことに疲れた私は、漫画を描くことで元気になれた」安野モヨコさんインタビュー

・ロックの爆音でパンチラは可能か!? ぴかりんMV「ロックロールパンティ」密着取材

・遅れる工事、届かない12万個のチーズタルト…。バンコクにBAKEを開店したところ……

塩谷舞( @ciotan

mai shiotaniさん(@ciotan)が投稿した写真