こんばんは、塩谷(@ciotan)です。フリーランスになって1年と4ヶ月が経過しました。
新入社員でもなく、起業家でもなく、フリーランスという立場だからそうなってしまうのか、「出来もしないこと」や「成功が保証されないこと」にぶつかっていく機会が、すごく減りました。
塩谷という人材は「Webで文章を書く」とか「Webサイトをディレクションする」とか「PRする」という領域のリソースであって、その技術に見合ったお仕事が来て、期待に精一杯こたえる。それはすごく嬉しいことです。
だけど、会社員時代。よく上司に「最初は大変でも、伸びしろを考えたら絶対に良いから、こっちの仕事をやってみて。」「仕事は常に見てるし、どうしてもキツくなったらすぐに教えて」と言われていた。今思えば、その環境がいかに自分のスキルを育てていたか。うーむ、育ててくれていたんだなぁ、と。
もちろん会社員でも成果は全てだけど、新卒入社して1、2年はみっちり育ててもらっていたように思います。
そうして3年勤めた会社を辞めてフリーランスになって、短い間ながらに色んな記事を書いて、プレイスタイルが決まってきた。「こう書けばバズる!」というルールのようなものが見えてきて、それはプロとしては良いことなんだけど、同時に書き手としてつまらなくもなってきた。
誰も「あなたのアウトラインはここまでだから、ここから動かないでください」なんて指示してないのに、自分で自分の限界を決めて、その範囲の中でせっせと仕事をしてる感じ。ブレストする相手も少ないので、脳内で企画会議が完結しちゃう。そうなると、企画の幅も狭まる。。
そうして悩んでいても仕事は止まることもないので、とにかく取材して取材して書いて書いて書いて・・・。
ある日、どうしても記事が書けなくて、過去の自分の記事をお手本に書いてしまった。過去の自分がお手本だなんて、これほどつまらないことはない。世界を変えたいどころか、自分すら変えられない。これじゃ成長、しないなぁと。
そんな時にやってきたお仕事が、先日の京都岡崎音楽祭「OKAZAKI LOOPS」。
京都で初開催する音楽祭のPRと、著名なディレクター陣の取材をお願いしたい、とご相談いただいて・・・ここまでは大丈夫、守備範囲。私が学んだ京都で、芸術のお仕事が出来るのが本当に嬉しくて、こんな幸せな仕事はない! とお受けしました。
でも、音楽祭の中でのアート展の企画・キュレーション・運営までも相談されたんです。「いやいや実績がないでしょ・・・」と冷静な判断をする前に「やりたいです!」と引き受けてしまった。
軽く過去紹介すると、私は京都市立芸術大学・美術学部・総合芸術学科(詳しくはリンク)というところ出身で、同窓生たちは今、狭き門である美術館の学芸員として活躍したりしている。私自身も大学時代は、お寺やファッションビルや、いろんな施設で作品展のキュレーションをさせてもらったりもしていました。
が。
法学部を出て法律をやってない人もいるだろうし、医学部を出てライターになった人も知ってるし、私も、美術畑で育ったものの、半ば不本意ながらでも、一度「出て」しまった。
しかも、そのOKAZAKI LOOPSという音楽祭は、広上淳一さん(指揮者)、高木正勝さん(音楽・映像作家)、名和晃平さん(彫刻家)、首藤康之さん(バレエダンサー)、細尾真孝さん(伝統工芸)という、各業界のトッププレイヤーがディレクターとして名を連ねているのです。
そこでアートの展示をするということはつまり、名和晃平さんと相談の上進めていくということで・・・それは他のどんな仕事よりもプレッシャーが重くて、脳というよりも、胃の半分以上をそのプレッシャーが敷き詰めていました。
しかも図面を書いたり作家さんと様々な相談・交渉をしたり、予算とにらめっこしたり、業者さんとやり取りしたり、バイトスタッフの手配をしたり・・・・(当然ながら)普段の仕事と全然違う! それも、他の案件も10本くらい走りながらのタイムアタック。
「あぁ、私、これが終わったらもうライター1本で生きていきたい・・・・」「出来もしない仕事を引き受けるんじゃなかった・・・」
と何度も夜な夜な独り言をボヤきながら、開催2ヶ月前くらいに友人の塚田ありなさん(@arina02)に「助けてくれーーー!」とヘルプを出す、というほどに切羽詰まっていました。
ありなさんはフリーランスの編集者・ライター・キュレーターとして仕事している2歳上の友人で、展覧会企画の経験もあり、しかも出品作家さんとほとんど知り合い。無茶振り承知で頼った結果、作家さん、業者さんとのやり取りを引き受けてくださって、本当に感謝しかありませんでした。
フリーランスになると、「同業の人にヘルプを出す」ということもまた出来ずに、自分が泥のようになる場合が多いんだけど、ヘルプ、出して、良かった・・・・。
そうして、心強い見方も加わって、いろいろと詰めていき。。。
展覧会のデザインを、ハトコである塩谷啓悟くんに依頼したところ、すごーーーく手際良く仕事を進めていただき。。。。(本当にありがとう。。)(塩谷啓悟くんのサイトはこちら)
さらに、どーーーーーしても展示してほしい作品があって、ただ大型作品ゆえに運搬費諸々で予算超過してしまう。でも、展示して欲しい。あの体験を、京都でも、実現させたい。。。そこで見切り発車で「予算は私がなんとかするので・・・」と出品をお願いしてしまって。。
そのために、依頼書をこしらえ、様々な企業様を巻き込むことになり・・・本展の価値を理解してくださって、協賛依頼を快く引き受けてくださった1→10さん、WHITEさん、eredie2さん、VOLOCITEEさん、本当に本当に本当にありがとうございました。このご恩忘れません。。。
と、そんなこんなで、無事に設営が完了したのでした(涙)。
#okazakiloops 特別展覧会「音をとらえる」はじまってます!!!!
今日は21時まで!!
名和晃平さんとダミアン・ジャレさんも楽しんでくださいました。よかったーー!!https://t.co/ASZmrwl5xd pic.twitter.com/Hcu8OB6Kz5
— 塩谷 舞(しおたん) (@ciotan) 2016年9月2日
振り返ると、本当に反省点ばっかり。私、見切り発車多すぎ。。。
でも、私とありなさんで相談してた図面をもとに、業者さんが十数人で施工をしてくれて。尊敬するクリエイター、アーティストの方々が遠方から来て搬入してくれて、展示が完成して、お願いしたアルバイトスタッフの子たちが一生懸命説明してくれていて、そこで見ず知らずの方々が作品に触れている。著名なライターさんや、アーティストさんも、作品展を体験している・・・・。
この光景は、私にとって、衝撃でした。
日頃の書いたり、宣伝したり・・・というお仕事は、程度はあれど、いつも「完成」したモノを広めていた。
私が文章を書くことで、お客さんを動かすことは出来ても、場所を創り出すことは出来なかった。1日限りのイベントはあっても・・・私にとってはこんな大規模に人が動くという仕事は、ここ数年で一度もなかった。
展示会場では、リアルな場所で、人が動いて、感動とか疑問とか喜びとか、いろんな感情が明らかに生まれていて、それがダイレクトに作家さんにも届いていて・・・・たまらなく幸せな情景を目にしました。
1日目が終了して、「あぁ、本当にやってよかった・・・」って、睡眠不足でウトウトしながらお好み焼きとビールを流し込みながら、なんども口にしてた。。
来てくださった方々の反響はこんな感じ。
これ最高でした。特に『hearing things #Metronome』という作品は体験して欲しい。「音」が形を持って迫ってくる。閉所恐怖症気味なので正直怖かった!でも「音」の魔物性感じれたので #okazakiloops pic.twitter.com/NB5Y94ACAU
— KURA (@KurAruK) 2016年9月2日
evalaさんのインスタレーションヤバすぎたな……メトロノームの音で「位相」なんて考えたこともなかったし、聴覚にダイレクトにクるあのメトロノームの音が無響室でズレて重なった一番最初の瞬間にほんとに音で酔った。
— Yuki Ohtsuka (@Route09_jp) 2016年9月2日
京都岡崎でやっていた『OKAZAKI LOOPS』の『「音」をとらえる』を見てきた。筧さんの「onNote v2」を体験していたら、側で「これは現代版オルゴールね」という声が聞こえて、参加者レベル高いなと感じた。この10年ぐらいでメディアアートはかなり普通になったのね。
— oki (@_taoki) 2016年9月4日
OKAZAKI LOOPS「音」をとらえる、楽し過ぎる!これは体験しなきゃだわ。 pic.twitter.com/88o3Xx62no
— こが とも (@tomot1106) 2016年9月3日
「音」をとらえる展 hearing things #Metronome / evala 茶室のような設えで、わたしだけの紡ぎたて物語りをきょうも体験しました。8分間の音によってわたしの脳でなにかが確実に起こってます。無響室ならではの混じりっけなしの音。
— MutsumiAbe (@MutsumiAbe) 2016年9月3日
evalaさんの「hearing things #Metronome」体験。身ひとつで隔離される分、五感と精神の回路が拡張される感じ。段階を踏んで潜っていくのが気持ちよすぎた。興奮した……#okazakiloops pic.twitter.com/Ycijaa8rP9
— lisa (@lliiiiisa) 2016年9月4日
OKAZAKI LOOPS 音をとらえる展 面白かったー
不思議なものが一杯でワクワクしました。特にスライムシンセサイザーと楽譜を読み取って音が鳴る展示は面白かったなー
— そうへい (@gjmdajmtgp) 2016年9月3日
リリックスピーカー展示されてた pic.twitter.com/I6d2AW3Svm
— 偏食家のナタリー (@natazarashi) 2016年9月2日
他にもたくさんたくさん嬉しい投稿があってご紹介したいのですが、果てしないので、こちらのtogetterをご覧ください。。。
ここで言及されている作品についてももっともっと詳しくご紹介したいのですが・・・別の機会で必ず紹介させてください!!!作品概要は前のブログでご紹介しているので、そちらをご覧ください!
今回のテーマは”「音」をとらえる”。
アート展というよりも、「音」を起点に考えて、従来の楽器や演奏と異なる手法で「音」をとらえている作品をキュレーションさせていただきました。
芸術祭ではなく、音楽祭。そこで相応しいテーマは何かと名和さんと相談した結果、軸が「音」になりました。
キュレーターというからには、もっとしっかりとしたコンセプトメイキングや、細かな展覧会デザインもしていきたかった、、、、、反省点を挙げだすととてつもない。でも、二度目を開催するとすれば、私の運営力はめちゃくちゃ上がったぞ・・・。
そして何より、参加してくださった関係者の方々、アルバイトスタッフのみんなも、本当に楽しそうにしていて、私はずっとずっと現場に張り付いていたいほど幸せな光景がそこに広がっていました。
しかし日曜日には、怒涛のトークショー3本があり。展示現場を離れて、ずっと司会をさせてもらっていました。キュレーションと違って司会は慣れている・・・が。ラインナップがすごすぎて・・・
朝から高木正勝さんと、茅葺き職人のサガラさん。
昼からバレエダンサーの首藤康之さんと、西陣織の細尾真孝さん。
そして夕方からは名和晃平さんと、振付師のダミアン・ジャレさんのトーク。
それぞれに自身の思想や世界を強く持ったアーティストの方々との3本勝負・・・
さらに音楽には音楽の、バレエにはバレエの、アートにはアートの流儀があるので、私のような人間がその全てを理解し尽くすことは当然叶わないのだけれども。でも、アーティストの作品を目で見て、頭で考えて、しっかり理解したいし吸いつくしたい・・・という思いは強く強く持っている。未熟ながら司会をさせてもらう上で、業界の重鎮の方も、熱心なファンの方も、ふと通りかかって足を止めた方も、その場にいる全ての方々をガッカリさせたくなかった。
脳内の糖分を総動員させながら、自分の中に抱いた感情を言葉にしながら、それぞれの作品についてお話を伺って参りました。
(あと、実は幼少期からバレエを習ったり、ピアノを長年やっていたり、演劇をしていたり・・・と浅く広くいろんな芸術に片足を突っ込みまくっていたので、今こうして編集者となっても実体験があるのは非常に重宝していて、お母さんありがとうと思いました・・・・どれも表現者としては、花咲かなかったけど!)
そんな濃密なプログラムで個人的にもヘトヘトになった、3日間のお祭り。OKAZAKI LOOPS。
とても全ては観きれなかったけど、それぞれのディレクター陣が手がけた、全力の舞台を見て・・・
本当に涙が出た。
いろんなことが言えるけど、芸術は魂の食べ物なんだと、涙を流して喜んでしまった。
感動した、感動したと書いてるけど、実は普段非常に冷めた目で観てしまう性格なので、この感動は異常。気が狂いそうになるくらい素晴らしかった。
他でもない名和さんからは、素晴らしい学びと刺激をもらった。
至福の刺激、学び、経験。
このブログ、自分の運営裏話で十分長くなってしまったのでそろそろ終わるけど、やっぱり私は、芸術が生まれる場所を嗅いで、食べて、伝えて、広げて・・・そういう営みがなによりも好きだわ。希少価値の高いものは、しっかりしっかり、言葉に残していかなきゃいけない。名和さんとダミアン・ジャレさんの手がけた舞台、VESSELがいかにヤバいのか、ということもしっかり記しておきたい。。。
芸大を卒業して5年。やっと色んなスキルを磨いて、芸術という仕事に「ただいま!」と言えそうな気がするし、むしろ「初めまして!」の気持ちでもある。
昔のブログを読み返すと見事に「サヨナラ、アートのお仕事!」と言っていて、確かこれはベソベソと泣きながら書いた気がするので、なかなか感慨深いものがあります。。
以下引用。
もう、エディターにしがみつくのは諦めます。
美大時代を懐かしむのも、やめにします。若い!若い!と言われなくなっても、まだまだ先は長いじゃないか
そんなに焦らなくても、アートは逃げないそれは普遍的に、いつの時代にも必要なものだから
また出会えるはず、私がそれを好きなら。また会えますように!!
だから、何故か巡り合ったこの職で、全力で、最高に気持ちのいいディレクターになりたい。
また会いましょうアート業界のみなさま、きっと
万が一がっかりさせていたらごめんなさい。
趣味でアートに関われる程わたしは器用には生きられないよ
全力でいたいだから離れる、とことん働く
失恋より涙が止まらないような、アート業界との別れは
大好きだった自分のひとつの人格とのお別れだからかもな入社して約一年後に言うのは遅いかも知れないけれど
真っさらな気持ちでがんばります。
(↑このテキストが載ってるのは私のブログじゃなくて、私のFacebookの投稿を田中伶ちゃんがブログに転載したやつなんだけどね)
記事を書く仕事はこれからも色んなジャンルで続けていくけど、私の軸はここにあるな、そして生まれたての軸はまだまだ未熟でしかないな・・・と、最高の学びを得たOKAZAKI LOOPSでした。
もっとこの軸を育てられるように、今はまず、しっかりと表現やクリエイティブを伝えられるメディアの立ち上げ準備中。まずはそこで土台を作ろう。そこをベースにして、やりたいことは沢山ある。クライアントワークだけじゃなくて、自分自身の新規事業として始めていきます。
頑張るぞ!!
最後に。OKAZAKI LOOPSに誘ってくださった林口さりさん。運営のみなさま、この度は本当に素敵な機会と、大いなる挑戦をさせていただき・・・ありがとうございました!
Text by 塩谷舞(@ciotan)